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富嶽百景 (太宰治) 43分割入力文の数= 43 <<  1  2  3   >>

富士山がよく見える御坂峠の茶屋に滞在する29歳の太宰治。峠を旅人や花嫁が通過し、彼自身の見合い話が進んでいく。評価の高い太宰治の初期エッセイ

作家や目的で選ぶ

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    325
    IA02635 (2022-05-07 評価=3.75)

    絵画の富士は頂角が広重85度、文晁84度、北斎30度とたいてい鋭角に描かれる。だが実測では東西124度、南北117度と、拡がりはのろくさで、秀抜のすらと高い山ではない
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    385
    IA02636 (2022-05-08 評価=4.00)

    フジヤマを憧れているからこそ、ワンダフルなのである。だが、十国峠から見た時は、最初雲に隠れていた頂きが、雲が切れると予想より高い所に現れて、驚き笑ってしまった

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    384
    IA02637 (2022-05-08 評価=3.75)

    人はたのもしさに接すると笑ってしまうものらしい。東京のアパートの窓から見る富士は、くるしい。小さく、心細く、沈没しかけてゆく軍艦の姿のようだ
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    387
    IA02638 (2022-05-09 評価=4.00)

    三年前に人から意外な事実を聞いて、夜通し酒をのんだ朝、便所の窓から見た富士は真っ白だった。昭和13年初秋、私はかばん一つさげて旅に出た。甲州の御坂峠である

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    360
    IA02639 (2022-05-09 評価=4.00)

    海抜1300メートルの御坂峠にある天下茶屋に、(師匠の)井伏鱒二氏が滞在しており、許しを得て当分落ちつくことになった。富士三景の一つという眺望だが私は余り好かなかった
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    356
    IA02640 (2022-05-10 評価=4.50)

    富士と近景の山々の下に河口湖がひろがっている。まるで風呂屋のペンキ画で、狼狽するほどだ。茶屋へ来て数日後、井伏氏と三ツ峠に登った。井伏氏は登山服姿だった

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    350
    IA02641 (2022-05-10 評価=4.50)

    私は毛ずねの出た短いドテラに、地下足袋に幅広の帯をしめた麦わら帽姿で、井伏氏も慰めるほど変であった。頂上では濃い霧が出て、井伏氏もつまらなそうであった
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    364
    IA02642 (2022-05-12 評価=5.00)

    茶店の老婆が気の毒がり、富士の大きな写真を持ち出し、崖の端で高く掲示し、懸命に注釈してくれた。私たちは番茶をすすりながら、笑った。いい富士を見た

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    361
    IA02643 (2022-05-12 評価=4.50)

    翌々日、井伏氏に連れられて、甲府の家でお見合いをした。背後の富士山頂の航空写真を振り返った際に娘さんの顔を見て、結婚したいと思った
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    365
    IA02644 (2022-05-13 評価=4.50)

    井伏氏はその日に帰京し、私は御坂に戻り、三か月間仕事を進めた。浪漫派の友人が私の宿に立ち寄った時に大笑いした事があった。ハイキングの際、峠を登る中年の小男がいた

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    397
    IA02645 (2022-05-13 評価=4.50)

    私がその男を名のある聖僧かも知れないと言っても、友人は「乞食だよ」と冷淡だった。結局、法師は犬に吠えられて取り乱し、富士も俗だが、法師も俗だ、ということになった
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    311
    IA02646 (2022-05-14 評価=5.00)

    ふもとの町の郵便局に勤める新田という青年がたずねて来た。太宰さんはひどいデカダンで、性格破産者という話だが、こんなにまじめなちゃんとした人と思わなかったと言う

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    345
    IA02647 (2022-05-14 評価=5.00)

    「君は、必死の勇をふるって僕を偵察に来たわけですね」「決死隊でした」新田は率直だった。自分の愛憎が恥ずかしく、私が富士はよくやっていると言うと彼は聡明に笑っていた
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    316
    IA02648 (2022-05-15 評価=4.50)

    新田はその後いろいろな青年を連れて来た。新田と、田辺という短歌の上手な青年は井伏氏の読者ということもあって、仲良くなった

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    386
    IA02649 (2022-05-15 評価=4.50)

    いちど岳麓の吉田に連れていってもらった。道路に沿って流れる清水を、富士の雪溶け水だと人々は信じている。モーパッサンの小説で河を泳ぐ令嬢の話題になった
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    336
    IA02650 (2022-05-16 評価=4.50)

    令嬢は着物をどうしたのか、男は金づちだったのか、などと話をした。「そう言えば、日本にも川の両岸で男と姫君が愁嘆する芝居があるじゃないか」と私が言った

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    337
    IA02651 (2022-05-16 評価=5.00)

    「姫君は愁嘆する必要はないし、泳げばいい。そう言えば、紀州の安珍清姫伝説の清姫は勇敢だ。日高川を泳ぎまくって、すごい。あのとき十四だったんだってね」
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    317
    IA02652 (2022-05-17 評価=4.50)

    そんなばかな話をしながら田辺の知り合いらしい古い宿屋に着いて、そこで飲んだ。その夜の、したたるように青い富士はよかった

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    351
    IA02653 (2022-05-17 評価=5.00)

    富士、月夜、維新の志士、鞍馬天狗。気取ってふところ手で歩いたら10円(現在の1万5000円位)が入った財布を落とす。ぶらぶら引き返したら、路のまんなかに光っていた
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    362
    IA02654 (2022-05-19 評価=5.00)

    御坂に戻った翌日、私が不潔なことをしてきたと思い、茶店の十五の娘さんがつんとしていた。一日の行動を細かく説明したら機嫌が直った。ある朝娘さんが「起きて」と叫んだ