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富嶽百景 (太宰治) 43分割入力文の数= 43 <<   1  2  3   >>

富士山がよく見える御坂峠の茶屋に滞在する29歳の太宰治。峠を旅人や花嫁が通過し、彼自身の見合い話が進んでいく。評価の高い太宰治の初期エッセイ

作家や目的で選ぶ

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    336
    IA02655 (2022-05-19 評価=5.00)

    富士の山頂が雪で光り輝いていた。「いいね」とほめると、娘さんは得意そうで、雪が降らなければだめなものだと教え直した。私は月見草の種をとってきて茶店の裏口にまいた
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    334
    IA02656 (2022-05-22 評価=5.00)

    富士には月見草がよく似合う、と思い込む事情がある。実は、郵便物は三日に一度くらいの割でバスで峠の麓、河口湖畔の河口村の郵便局に受け取りに行かねばならない

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    313
    IA02657 (2022-05-22 評価=4.00)

    あるとき、その帰りにバスで私のとなりに60歳くらいの老婆が座っていた。女車掌が「富士がよく見えますね」と言い出したので、車内はひとしきりざわめいた
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    327
    IA02658 (2022-05-22 評価=5.00)

    だが、私のとなりの御隠居は、富士には一瞥も与えず、山路に沿った断崖を見つめていた。老婆はぼんやりひとこと「おや、月見草」と言って路傍をゆびさした

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    340
    IA02659 (2022-05-22 評価=5.00)

    富士には、月見草がよく似合う。富士の山と対峙している月見草の花が、私の目に残った。十月の半ば過ぎ、夕焼けの富士を見て、茶店のおかみさんに声をかけた
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    312
    IA02660 (2022-05-23 評価=4.00)

    おかみさんは「山へでものぼったら」と笑う。私は「どの山に登っても降りなければならないし、同じ富士が見えるだけで気が重い」と答えた

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    363
    IA02661 (2022-05-23 評価=5.00)

    寝る前に富士を見て、あしたは天気だな、と生きている喜びを感じる。仕事は楽しみでもあるのだが、私はまだ、あすの文学の、新しさというものに思い悩み、身悶えしていた
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    310
    IA02662 (2022-05-24 評価=4.00)

    眼前の富士は私の考える「単一表現」の美しさなのかもしれないが、あまりの素朴には閉口する。十月末、麓の吉田のまちの遊女の団体が御坂峠へ自動車五台に分乗してやって来た

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    365
    IA02663 (2022-05-24 評価=5.00)

    遊女たちは最初の異様の緊張が解けると、富士を眺める者、絵葉書を選ぶ者、と見ちゃいられない。彼女たちの境遇に共感は感じるが何もできない。ふと富士に頼もうと思いつく
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    395
    IA02664 (2022-05-25 評価=5.00)

    こいつらをよろしく頼むぜ。そんな気持ちで見ると、富士はふところ手して傲然とかまえる大親分だ。私は安心して、茶店の子供と犬を連れ、トンネルの方へ遊びに行った

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    405
    IA02665 (2022-05-25 評価=5.00)

    そのころ私の結婚話は一頓挫だった。私の実家から助力が得られず、結婚式の費用が不足していた。私は甲府の家にお伺いし、娘さんと母堂に事情を残らず告白した
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    301
    IA02666 (2022-05-26 評価=5.00)

    娘さんが実家は結婚に反対なのかと尋ねた。ひとりでやれ、という意味だと伝えると、母は愛情と職業に熱意があれば結構と言う。私は眼が熱くなりこの母に孝行しようと思った

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    396
    IA02667 (2022-05-26 評価=5.00)

    娘さんがバスの発着所まで送ってくれた。見れば分かるのに、富士に雪が降ったかと私に問う。やくざな口調で「愚問です」と答えると、くすくす笑う。おかしな娘さんだ
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    402
    IA02668 (2022-05-27 評価=5.00)

    御坂に戻ると肩が凝っていて、おかみさんと娘さんにたたいてもらう。それほど甲府では緊張したようだ。私はぼんやりして、仕事する気がおこらず、小説は一枚も書けなかった

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    311
    IA02669 (2022-05-27 評価=5.00)

    十五の娘さんが拭き掃除をしながら言う「お客さん、甲府から帰って勉強してない。私は原稿用紙を番号順に揃えるのが楽しみなのに」と、多少とげとげしい口調。
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    382
    IA02670 (2022-05-28 評価=5.00)

    私はありがたく思い、報酬を考えない純粋な声援に娘さんを美しいと思った。十月末、客も減り、おかみさんもおらず二人切りの時、洗濯中の娘さんの傍へ近寄り、声をかけた

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    327
    IA02671 (2022-05-28 評価=4.00)

    娘さんは恐怖の表情で泣きべそをかいた。以後彼女と二人になるのを避け、逆に客が来たときに茶店に腰を下ろすようにした。その後、花嫁姿のお客が来たことがある
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    314
    IA02672 (2022-05-29 評価=5.00)

    花嫁は正式の和式の礼装で、私と娘さんは気になって花嫁の様子を見ていた。はたで見てもロマンチックで、彼女は崖のふちに立ち、大胆なポーズでゆっくり富士を眺めている

  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    336
    IA02673 (2022-05-29 評価=5.00)

    花嫁が大きなあくびをした。花嫁が去って「(結婚式の前に)あくびなんて初めての結婚じゃない」と私がけなすと、娘さんは「あんなお嫁さん、貰っちゃいけないよ」と私を茶化した
  • エッセイ
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    304
    IA02674 (2022-05-30 評価=5.00)

    私の結婚の話は好転し、小規模だが厳粛にできることになり、世話になった先輩の情に感謝した。さて、11月にはいると寒くなり、茶店のおかみさんがこたつを買ってきてくれた