明治時代の東京郊外。国木田独歩(くにきだどっぽ)が武蔵野を散策しながら情景をつづります。少々入力は難しいものの、昔の情景や環境、暮らしに思いを馳せる事のできる優れた自然文学作品です
- IA03364 (2023-03-31 評価=5.00)
小道で道に迷い、適当な路を選んでも、美しい景色や素晴らしい発見がある。森が終わっても、また先に林や小さな森があり、青い山々が見え、小気味よい風が吹く - IA03365 (2023-04-01 評価=5.00)
武蔵野では高い場所からの眺望は容易には得られないが、萱原に下りると小さな谷底にある細長い池で、水の澄み渡った美しさを楽しめる。道を尋ねる場合は農夫に尋ねるとよい - IA03366 (2023-04-01 評価=5.00)
指示された道を進むと、農家の庭先を通って往来に出ることができ、君は近道に感謝するだろう。黄葉した林が続く静寂な景色を楽しみながら独り静かに歩くのも楽しい - IA03367 (2023-04-02 評価=4.00)
返りは別な路を歩くのが楽しい。落日の際は美観を得ることができるが、路をいそごう。与謝野蕪村の「山は暮れ野は黄昏のすすきかな」の名句を思い出すだろう - IA03368 (2023-04-02 評価=4.00)
■六 三年前、武蔵境の北の玉川上水にかかる桜橋の傍に掛け茶屋があり、そこの婆さんに夏の郊外の散歩のおもしろさを話してみたことがある。だが無駄だった - IA03369 (2023-04-03 評価=4.00)
青草の中を流れる溝の水は小金井の水道から引かれており、店の婆さんは朝夕鍋釜を洗うようだ。自分らは小金井の堤を散歩し、雲が湧き出る中、青空が広がる景色を楽しんだ - IA03370 (2023-04-03 評価=3.00)
濁った色の霞が雲と雲の間をかき乱し、光線と陰翳が空中に微動している。野良にはかげろうが立ち昇り長く見ていることができない。自分らは汗をふき、堤の上を辿ってゆく - IA03371 (2023-04-04 評価=4.00)
長堤三里には人影がほとんどない。水道の流れは光線の具合で変化し、突然薄暗くなったり、雲の影が走り過ぎたりする。自分たちは橋の上に立って流れを眺めていた - IA03372 (2023-04-04 評価=3.00)
水面が輝き、両側の林や桜が鮮やかに緑色の光を放ち、橋の下では優しい水音がする。水の音を描いた英文の詩のように、老人と少年が木陰に座っているような気がする - IA03373 (2023-04-05 評価=4.00)
■七 裁判官の友人が武蔵野の範囲は地理や歴史では決まらず、自分で決めていいのだという。彼は当初武蔵野に東京も含むと考えていたが、今は除外するという。以下彼の言葉―― - IA03374 (2023-04-05 評価=3.00)
武蔵野の味を描くには、町外れの風景や、東京中心の自然風景を描写する必要があり、かつ首府東京を振り返るべきだ。そしてさまざまな変化や出会いが面白い、という - IA03375 (2023-04-06 評価=4.00)
武蔵野の趣味を描くためには、駅や家並みを描写する必要があり、多摩川の趣味や、田や林との組み合わせの趣味等も重要である、と彼はいう - IA03376 (2023-04-06 評価=5.00)
武蔵野の範囲は、雑司が谷から中山道を通り川越近傍に至り、立川を通って南の多摩川を南限とする。八王子は含まれず、丸子、下目黒、亀井戸、小松川、千住近傍で終わる―― - IA03377 (2023-04-07 評価=4.00)
■八 町外れを「武蔵野」の主題にすることに同意する。武蔵野の水流については、第一は多摩川、第二に隅田川であるが、四谷上水や神田上水となる流れもある - IA03378 (2023-04-07 評価=3.00)
武蔵野の小川は美しく、季節を通じて趣がある。初め濁った流れが多く不快な気がしたが慣れると美しく思えるようになった。四五年前の友人との散歩でも夜景が素晴らしかった - IA03379 (2023-04-08 評価=3.00)
明るい月の下、老人を含め村の人々が橋の上で笑い、歌っていた。月が林の細流にきらめき、水蒸気がかすめる。また、大根の季節には、農夫たちは細流で大根の土を洗っている - IA03380 (2023-04-08 評価=3.00)
■九 東京から郊外にいたる生活と自然が配合された光景は、社会の縮図を思い起こさせる。大都会の生活の名残と田舎の生活の余波が混ざって、感興を起こさせる - IA03381 (2023-04-09 評価=4.00)
片眼の犬もいる。小さな料理屋の障子には女の影が映っている。大八車が通り、鍛冶屋では蹄鉄を打つ火花が往来まで飛んでいる。月が高く昇り、向こうの屋根が白んできた - IA03382 (2023-04-09 評価=3.00)
小さな野菜市が立つ。短い夜が明けると荷車が通り始める。だんだん暑くなり、砂埃が立つ。かなたで汽笛が聞こえる。
「武蔵野」国木田独歩 作 1898年発表