小石川養生所で六助という52歳の男が癌で死亡した。ところが木賃宿の主人が男のこみ入った家族関係について知らせてきた…。「赤ひげ診療譚」第二篇
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■一 保本登は診療に立ち会ったり、助手をするようになった。狂女の出来事の後も施療所を出たい気持ちは変わらなかったが、赤ひげに対しては大きな心の負債を負うことになった - IA03759 (2023-10-10 評価=4.00)
赤ひげと自分が、眼に見えないところで親しくむすびついたようにも思えたが、養生所から出たい気持ちに変わりはなかった。四月はじめ、去定は登を北の病棟へ呼びつけた - IA03760 (2023-10-11 評価=3.00)
北の病棟は重症者の部屋である。去定は死にかかっている病人の枕元に座り、登に診察してみろ、と言った。登は紫斑を指さし「あと半刻ぐらいしかもたないと思います」と答えた - IA03761 (2023-10-11 評価=5.00)
去定は患者の病歴を登に渡し「これを読んで診断をしてみろ」と言った。病人は六助、52歳。全身の衰弱と腹痛で入所したが、最近は嘔吐が増え、胃の下が腫れて全身が消耗している - IA03762 (2023-10-12 評価=4.00)
登は病名を答えたが去定は否定し「病歴を確認しろ」と言った。登は確認してさらに別の病名を答えたが、去定は「膵臓の癌だ。治療法はない。稀な癌だから覚えておくといい」と言った - IA03763 (2023-10-12 評価=4.00)
「医術は個体の生命力を凌ぐことはできない。医者は個体の病気の症状と経過を確認するだけだ。貧困と無知に勝つことで医術の不足を補うほかない」と去定は自嘲ぎみに語った - IA03764 (2023-10-13 評価=5.00)
去定は「政治は貧困や無知に対しては何もしない」と言った。登は「しかし、この施薬院……養生所は、そのために幕府の費用で設けられたのではありませんか」と反問した - IA03765 (2023-10-13 評価=5.00)
■二 去定は「ないよりはいい。しかし問題は、貧困と無知さえ解消すれば、病気の大半は起こらないことだ」と答えた。その時、若い女の人夫が大けがで担ぎこまれたと連絡があった - IA03766 (2023-10-14 評価=5.00)
去定は「六助は大名家からの買い上げもある有名な蒔絵師だったらしいが、木賃宿から運びこまれた。家族知人はなかったらしく、ここでは何も語らなかった」と言い残して去った - IA03767 (2023-10-14 評価=4.00)
去定は「荘厳な臨終をよく見て行け」と言っていたが、病人は醜悪だった。顔は落ち窪み、すでに死相があらわれて、骸骨のような感じだった - IA03768 (2023-10-15 評価=5.00)
死に瀕している病人を見て、登は「死は醜悪だ」と思った。やがて森半太夫が老人の持ち物を持ってきて登と交代し、登は去定が行う傷の縫合を見に行くことになった - IA03769 (2023-10-15 評価=5.00)
登が外科専用の診察室に行くと、板敷に薄縁を敷いた上に、さらし木綿をかけられた若い女が寝かされていた。腹部のやや目立つふくらみで妊娠の初期だということがわかる - IA03770 (2023-10-16 評価=5.00)
女の両手は広げられて柱に紐で結びつけられており、去定が「足を押さえろ、暴れるかもしれない」と登に命じた。登が女の膝がしらを押さえると、去定は女の腹の上の布を取りのけた - IA03771 (2023-10-16 評価=5.00)
傷口は左の脇腹からへその下まで五寸(15センチ)以上ある。女が痙攣すると、少量の血が流れ、傷口から太く青みがかった大腸がとび出た。それを見た登は意識を失った - IA03772 (2023-10-17 評価=5.00)
■三 登は半太夫に頬を叩かれて目を覚ましたが、去定の指示で登は自分の部屋に戻った。狂女おゆみの時に続く失敗に、登は屈辱感を感じていた - IA03773 (2023-10-17 評価=5.00)
その後半太夫が来て登を食事に誘ったが、登は食欲がなく断った。すると、半太夫は午後から去定が登を外診につれてゆくそうだ、と言い、六助が死んだ事を知らせるため戻って行った - IA03774 (2023-10-19 評価=5.00)
諸侯や富豪に招かれる外診もあったが、貧しい病人の施療を行う場合、施療を嫌う人には感謝される事は少ないという話だった。登は去定の外診のお供で出かけた - IA03775 (2023-10-19 評価=4.00)
去定の供は平服の登に、もう一人薬籠を背負った小者の竹造がいた。竹造は二十八になるが、どもりで、人によい印象を与えるような返事ができない男だった - IA03776 (2023-10-20 評価=4.00)
伝通院の裏へ近づいた時、五十歳くらいの男が去定にかけ寄ってきた。さきほど亡くなった蒔絵師の六助について、男はその娘について話がある、来てもらえないか、と言う - IA03777 (2023-10-20 評価=4.00)
去定は忙しかったので、代わりに吃竹と登が行くと、男は宿屋の主人金兵衛で、六助は前から宿屋に時々来ていたという。彼はここ二年余り住んでいて、病気で養生所に入ったという