「青鬼の褌(ふんどし)を洗う女」は専務のオメカケとなるサチ子が多くの恋をし自分に正直に生きる姿を描く坂口安吾の実験的作品。軽妙な文体で入しやすい
- IA03931 (2024-01-13 評価=4.00)
母は週に一回、私の見回りと称して帰ってきたが、実際には、それは若い男と会うためだった。母に干渉する気持ちは微塵もないが、安っぽすぎる男だった - IA03932 (2024-01-13 評価=4.00)
母はきっと大空襲があるから山へ帰ると言っていたが、三月九日の夜は男が来て家で酒をのんでいた。警戒警報があって、様子を見ていたら女中が方々に火の手があがっているという - IA03933 (2024-01-14 評価=4.00)
私が部屋にねころんでいると、母の男が私を乱暴しようとした。私がすりぬけて、皆の名を呼んでいた母と合流し、外へ出ると、目の前に真っ赤な火の幕がある - IA03934 (2024-01-14 評価=4.00)
どっちへ逃げたらいいのかわからなかったが、私は脱出できれば新鮮な世界が開かれる、と期待した。翌日、私はすべてを失っていたが、不幸ではない何かが近づいてくるのを感じた - IA03935 (2024-01-15 評価=5.00)
外はサンタンたる有様。学校には避難民が大勢いて、布団や服を取り合っている。命がありゃもうけものと家族を励ます者もいれば、屍体の時計を頂けばよかったと言う者もいる - IA03936 (2024-01-15 評価=5.00)
私と女中のオソヨさんは、逃げる途中荷物を捨てて着物一枚。彼女はその敏腕で布団と毛布、乾パンを入手したが、富山に帰ると言う。私は人が何とかしてくれるのが面白かった - IA03937 (2024-01-16 評価=4.00)
私はわがままいっぱいに育てられたけど、困ったときは自然になんとかなるもの、と思っている。一人で留守番の際は、料理を作らずカンヅメをさがす。空腹でも本を読んでいる - IA03938 (2024-01-16 評価=4.00)
だから人々には不幸でも、私にはたしかに夜明けに見えたのだ。無一物であっても新生のふりだしの姿で、空々しい祖国だの民族のような考えもないから、不安も恐怖もない - IA03939 (2024-01-17 評価=5.00)
祖国の危機、日本の滅亡も囁かれていたが、私はどうにかなると思っていた。私には現実だけがあり、すべて受け入れるだけだった。人生はそんなふうに行きあたりバッタリなものだ - IA03940 (2024-01-17 評価=5.00)
私は五十歩と百歩の違いを比べて選ぶだけだ。私は山の別荘へ母の事を報告に行くか、会社へ顔をだすか迷っていたが、専務が探しにきてくれて、惨めな避難民列車に乗らずにすんだ - IA03941 (2024-01-18 評価=5.00)
避難民は親身になってくれるが、夜は男に狙われる。オソヨさんが撃退してくれるが、私たちは昼間でないと眠れない。愛想がよくてすぐニッコリ笑う私の性格のせいだろうか - IA03942 (2024-01-18 評価=5.00)
そのせいで人々は私を色っぽいとか助平たらしいとかいうのである。私は元来無口なたちで、タバコが欲しい時には手をつきだすだけで男の人が掌にタバコをのせてくれることが多い - IA03943 (2024-01-19 評価=4.00)
私は当たり前に心得て、ありがとうと言うことはない。逆に男の人がタバコを欲しがっていたら、黙って差しだす。私は本能的に親切なだけだが、登美子さんは私を稀な助平だという - IA03944 (2024-01-19 評価=5.00)
私は知らない美青年に顔をほてらす登美子さんの方が、浮気だと思う。だが男の人は私の親切を浮気だと思って口説いたりする。そんな避難所にうんざりしていた私は、専務を見て安堵した - IA03945 (2024-01-21 評価=5.00)
★ 専務の久須美は56歳、白髪の醜男だが、背は6尺(182cm)あり私には可愛く見えた。あるとき彼は、私ぐらい君を可愛がる男にめぐりあうことはないだろう、と言った。私もそう思った - IA03946 (2024-01-21 評価=5.00)
彼は私が浮気をしても許す人だった。彼は浮気は私に分からぬようにと言うぐらいで、私の本性をすべて受け入れる。だいたい私はスローモーションで世間の速力について行けない - IA03947 (2024-01-22 評価=5.00)
私は終業三十分前に出勤したり、久須美との旅行に二時間三時間遅れることがあった。たとえば知り合いの隠居ジイサンが来て話しこむと、帰ってと言えない。私にとって不可抗力なのだ - IA03948 (2024-01-22 評価=5.00)
だから、私たちの旅行はトンチンカンで、思いがけないところで汽車を降ろされたりして楽しい旅行になる。久須美は青年のような若い目は持っていないが、寝室の彼は可愛かった - IA03949 (2024-01-23 評価=4.00)
若い目はたかが風景にすぎない。昔出征青年にやさしくしたことも、肉体の風景にすぎない。久須美に関する限り風景ではない。彼が訪ねてくると、私は腕をさしだして彼をまつ - IA03950 (2024-01-23 評価=4.00)
このような媚態は、久須美が一人の私を創造し媚態を創作したようなもので、私の感謝のまごころであった。私は病気の時ですら、彼を迎え、媚態を失うことはなかった