「青鬼の褌(ふんどし)を洗う女」は専務のオメカケとなるサチ子が多くの恋をし自分に正直に生きる姿を描く坂口安吾の実験的作品。軽妙な文体で入しやすい
- IA03991 (2024-02-16 評価=4.00)
久須美は買い物の選択が上手で、思いがけない衣裳が届いて彼にとびつくこともあった。私は朝・昼・夜と衣裳を変えた。買ってもらった衣裳や小物が気に入ると、意味なく街に出た - IA03992 (2024-02-16 評価=5.00)
私はどう久須美に感謝するか心を悩ませた。浮気自体にうしろめたさはなかったが、人にお茶に誘われた時などは断った。感謝の表現とはいえ世帯じみていて母を思いだし、イヤだった - IA03993 (2024-02-17 評価=4.00)
浮気は退屈千万なものだが、退屈は魅力的でもある。私は久須美の身体をぼんやり眺めても飽きず、つついたり撫でたりして遊ぶ。自分の顔や身体を鏡にうつし眺めることもある - IA03994 (2024-02-17 評価=3.00)
退屈というものはなつかしい景色のようだ。景色が美しいのではなく退屈が美しいのだ。私は久須美の白髪をいじる。彼は疲れてよくねむり、五六時間で目ざめて私の寝顔を眺める - IA03995 (2024-02-18 評価=4.00)
私がノブ子さんと田代さんの迎えでエッちゃんと別れて温泉から帰った時、私は発熱して数日寝ついた。見舞いにきた登美子さんは都合よく発熱した私を、天性の妖婦と言った - IA03996 (2024-02-18 評価=5.00)
久須美は病気の間、私を世話して深い安堵を与えてくれた。どうして彼の目は私の心に深く沁みてくるのだろう。そのくせ、彼は急に「墨田川が好きなら結婚させてあげる」などと言う - IA03997 (2024-02-19 評価=4.00)
私が墨田川はもう嫌いだと言うと、久須美は言った。「君が本当に好きだから、私のような年寄りに束縛される君が可哀そうなのだ。君は眠ると目の縁に薄い隈がかかるだろう(続く) - IA03998 (2024-02-19 評価=5.00)
(続き)私はそれを見て肺病と誤解し、息をひきとる君の姿を想像して恐怖した。自分は年配で死は怖れていないが、君は違う。若さは幸福でなければならないと思うのだ(続く) - IA03999 (2024-02-21 評価=5.00)
(続き)最愛の若い娘の幸福のためなら、自己犠牲もいとわない」と彼は言った。彼は家族をすてた。恋に盲いた年寄りの狂気と考える人もいるだろうが、それ以前に、彼は孤独なのだ - IA04000 (2024-02-21 評価=5.00)
彼の魂は孤独だ。人生を観念の上で見る人で、私を最愛の女という観念の上で見ている。そして魂は冷酷だ。私より可愛い愛人ができれば私を冷たく忘れるだろう - IA04001 (2024-02-22 評価=5.00)
彼は私に逃げられるより、自分から私を逃がした方が気が楽な甘ちゃんなのだ。一方、田代さんはまだ目的未達成。奥さんの話をしたりするなど、彼の浮気哲学には矛盾があるようだ - IA04002 (2024-02-22 評価=5.00)
田代さんは商売女ばかり相手にしているから娘を知らないのだ。女は相手が好きでも身体だけは厭だと言う。女は恋人に暴行されたいのだが、田代さんはそれは外道だと思っている - IA04003 (2024-02-23 評価=5.00)
田代さんはノブ子さんを口説き続けてはいるが、彼女の精神的尊敬を得て満足していた。彼女は彼女で、自分の生活をきりつめて人を助ける事が善行なのか、疑っているようだった - IA04004 (2024-02-23 評価=5.00)
ノブ子さんは独立してやって行けるのか、苦しんでいるのだ。私は意見を求められても生返事しかできない。彼女は真剣だが、私には陰にいる田代さんの甘さ加減がおかしく見えた - IA04005 (2024-02-24 評価=5.00)
田代さんは人生はままならねえと言うが、ノブ子さんを聖処女と言うなどツジツマの合わない所もある人だ。私は野たれ死によりは、赤鬼青鬼のいる戦災の避難所で死んだ方がいい - IA04006 (2024-02-24 評価=5.00)
人のいない荒野で死ぬ寂寥には堪えられない。男であれば鬼でも一緒にいたいのだ。人が物資不足で困っている時に、私がゼイタクに飽きたとして、思う事は野たれ死にだ - IA04007 (2024-02-25 評価=4.00)
久須美は起きて座るとうたたねを始める。私がゆさぶると目をさますので、私がニッコリすると、彼の心を充たしている。「あなたを見ていたわ」と言うと、彼は再びコクリコクリやりだす - IA04008 (2024-02-25 評価=4.00)
私は谷川で青鬼の虎の皮のフンドシを洗っている。私が眠ると、蒼鬼が私をゆさぶって……
「青鬼の褌を洗う女」坂口安吾 作 1947年