「青鬼の褌(ふんどし)を洗う女」は専務のオメカケとなるサチ子が多くの恋をし自分に正直に生きる姿を描く坂口安吾の実験的作品。軽妙な文体で入しやすい
- IA03971 (2024-02-05 評価=5.00)
エッちゃんが堅くなると、田代さんは「飲食店が休業を命ぜられて、ノブちゃんは私のありがた味が分かったらしい。そこで温泉でノブちゃんを口説こうというわけです」とおどけて言う - IA03972 (2024-02-05 評価=5.00)
ノブ子さんは「心配で田代さんに相談したの」と言い訳する。彼女は隣の店の人が病気になると、代わりに働いてあげるような優しい人だから、私はこうなるだろうと予想はしていた - IA03973 (2024-02-06 評価=5.00)
損得を忘れて人につくす人なのだ。自分のもうけがなくても、売り上げの一割を田代さんの奥さんに届ける。お金好きの田代さんも、なぜかノブちゃんのこの純情な性質をいたわった - IA03974 (2024-02-06 評価=5.00)
田代さんは私の浮気精神を彼女に伝授させようと「処女をまもるだの、私の女房に悪いだの言わず、奥さん(私のこと)を見習わったら」などと彼女を口説くが、私は彼の助太刀はしない - IA03975 (2024-02-07 評価=5.00)
田代さんは、友情があるならその友だちの恋をとりもち、友だちをもちあげてやるべきだと私に説く。ノブ子さんは大学生やマーケットの不良達に人気だから、彼は落ち着かないのだ - IA03976 (2024-02-07 評価=5.00)
処女なんて、とか言っていても、彼は心配なのだ。ノブ子さんはウンと言わないが田代さんが好きなのだ。彼女は表面強気でも、営業や恋に迷い心細く生きている事を私は知っている - IA03977 (2024-02-08 評価=5.00)
田代さんは「浮気は誰にも分からないようにしなきゃ。こういう時、関係はなかったと言い張ることが大事です」と言う。しかし彼女が同じ部屋には寝ないと言ったら顔色を変えた - IA03978 (2024-02-08 評価=5.00)
その後も田代さんは彼女を口説いたが、状況は変わらない。男たちが温泉に行くと、彼女は「万一田代さんに許したら、あとあと侘しくなる。どうしたらいいの」と困惑顔で私に尋ねた - IA03979 (2024-02-09 評価=4.00)
その晩の食卓、私は田代さんに「ノブ子さんにとって、処女・貞操は身寄りのようなもの。生活能力のない女から身寄りを貰うのなら、生活の保証を現物で示さなくては」と言った - IA03980 (2024-02-09 評価=5.00)
「芸者の水揚げ取引みたいで、処女の侮辱だな。処女は本来タダですよ」と田代さん。私は「女に身寄りがなかったら、処女を失うと闇の女になりかねないわ」と反論した - IA03981 (2024-02-10 評価=5.00)
田代さんは反論する。「ノブちゃんの心細さはわかりますよ。処女ひとつに女の純潔をかけるから、処女を失うと純潔も失ってしまい闇の女になる、これは誤れる思想ですよ(続く) - IA03982 (2024-02-10 評価=5.00)
(続き)サチ子夫人は愛情が感謝で物質に換算でき、自らを愛情による職業婦人と言う淑女なのに、同情ストライキはいけない。浮気の大精神を忘れて処女の美徳を讃えてはいけねえ」 - IA03983 (2024-02-11 評価=4.00)
その夜、二人が別室へ去ると、エッちゃんが「ノブ子さんは考えこんで、かわいそうじゃねえのか」と言う。「仕方がないわ。女が一人でいればいろいろ口説かれるでしょう」と答えた - IA03984 (2024-02-11 評価=5.00)
「いつかあなたが言った、オメカケが浮気するとバチが当たるってどんなこと?」「お前は別だ。お前は浮気じゃない。心がやさしすぎるんだ。苦しめちゃいけねえからお前を諦めたよ」 - IA03985 (2024-02-12 評価=5.00)
「なぜ諦めたの?」「僕は下っ端相撲だから。お前は金のかかる女だし、仕方ねえさ」「私も、こんなしめっぽいのはイヤだから、忘れるわ」すると、エッちゃんは下駄で外へでていった - IA03986 (2024-02-12 評価=5.00)
彼はすぐ戻ってきて「オイ、死のう」と言って私を担いだ。「人殺しって叫ぶわよ。なぜ一人で死なないの」と雨戸に手をかけると、彼は呻き声をたてて私を降ろし、外の闇へ歩き去った - IA03987 (2024-02-13 評価=5.00)
私は眠るときでも電灯を消すことができないたちで、彼が出て行って五分ほどで怖ろしくなった。ノブ子さんの部屋に行って事情を話し、彼女の布団の中で眠らせてもらうことにした - IA03988 (2024-02-13 評価=5.00)
★ 夏がきて、私と久須美、田代さんとノブ子さんは海岸の高台の旅館の広い独立した一棟で暮らした。男性二人は東京へ通い、私とノブ子さんは海水浴をしたり、午睡して過ごす - IA03989 (2024-02-14 評価=5.00)
食卓では、久須美にも田代さんにもオチョウシをさす。自分で話すより人の話のはずむのが楽しい。私は物を貰った際にありがとう、と言ったり、他によけいな事を言ったりする - IA03990 (2024-02-14 評価=5.00)
近ごろ私は、ありがとうなど余計なことを言ってぞっとする。言葉や声が自然に冷淡に変わるのだ。私は好きな人が、私の限定をはみだす物を見立てて買ってきてくれると嬉しくなる