人と異なる感性を持つために、自堕落とも思われる人生を歩んでいく主人公、大庭葉蔵。作者自身の私小説とも目される日本文学史に輝く大ベストセラー
- IA00437 (2019-11-12 評価=4.00)
自分には、淫売婦というものが、白痴か狂人のように見え、そのふところの中で、かえって安心して、ぐっすり眠る事が出来ました。 - IA00438 (2019-11-13 評価=4.33)
自分は「同類」の淫売婦たちと遊んでいるうちに、あるいまわしい雰囲気を身辺にいつもただよわせるようになった様子でした。 - IA00442 (2019-11-14 評価=3.50)
自分は、日蔭者という意識に苦しめられていましたが、地下運動のグループの雰囲気が、へんに安心で、居心地がよく、運動の肌が自分に合った感じなのでした。 - IA00443 (2019-11-14 評価=3.50)
自分は、非合法の世界においては、かえってのびのびと、所謂「健康」に振る舞う事が出来ましたので、見込みのある「同志」として、用事をたのまれるほどになったのです。 - IA00445 (2019-11-14 評価=4.00)
父の議員の任期も満期に近づいたので、自分は本郷森川町の仙遊館という古い下宿の、薄暗い部屋に引っ越すと、たちまち金に困りました。 - IA00446 (2019-11-15 評価=4.00)
ほとんど学業も、また画の勉強も放棄し、高等学校へ入学して、二年目の十一月、自分より年上の有夫の婦人と情死事件などを起こし、自分の身の上は、一変しました。 - IA00448 (2019-11-15 評価=4.33)
娘が部屋に来ると、自分は知らん振りをしておればいいのに、相手をし、用事を言いつけます。かえって女は、男に用事をたのまれると喜ぶものなのです。 - IA00449 (2019-11-15 評価=4.33)
もうひとりは、女子高等師範の文科生の所謂「同志」でした。ある夏の夜、街の暗いところで、キスをしてやりましたら、秘密の事務所で朝まで大騒ぎという事になりました。 - IA00450 (2019-11-16 評価=4.33)
その頃、自分も、ひとりで電車にも乗れるし、歌舞伎座にも行けるし、または、カフェにだってはいれるくらい、多少の図々しさを装えるようになっていたのです。 - IA00451 (2019-11-16 評価=4.33)
秋の、寒い晩、自分は銀座裏の屋台の鮨やでまずい鮨を食べながらツネ子(たしかではありません。情死の相手の名前をさえ忘れているような自分なのです)を待っていました。 - IA00452 (2019-11-16 評価=4.00)
そのひとも、身のまわりに冷たい木枯らしが吹いて、孤立している感じの女でした。自分より二つ年上で、故郷は広島、主人が刑務所にいる、などと物語るのでした。 - IA00453 (2019-11-16 評価=4.00)
ひどい侘しさを、からだの外郭に、一寸くらいの幅の気流みたいに持っている人でした。その詐欺罪の犯人の妻と過ごした一夜は、自分にとって幸福な解放せられた夜でした - IA00454 (2019-11-17 評価=3.50)
しかし、ただ一夜でした。朝、眼が覚めて、傷つけられないうちに、早く、このまま、わかれたいとあせり、れいのお道化の煙幕を張りめぐらし、顔も洗わずに引き上げました。 - IA00455 (2019-11-17 評価=4.00)
それから、ひとつき、自分は、ツネ子とは逢いませんでした。何か烈火の如く怒られそうな気がしてたまらず、逢うのに頗るおっくうがる性質でしたので、銀座は敬遠の形でした