人と異なる感性を持つために、自堕落とも思われる人生を歩んでいく主人公、大庭葉蔵。作者自身の私小説とも目される日本文学史に輝く大ベストセラー
- IA00456 (2019-11-17 評価=3.50)
十一月の末、自分は、堀木と神田の屋台で安酒を飲んだ後、「傍に坐った女給に、きっとキスしてみせる」と騒ぐ堀木と銀座のツネ子の店にほとんど無一文で入りました。 - IA00457 (2019-11-17 評価=4.00)
自分の眼の前で、堀木の猛烈なキスを受けたツネ子は、自分とわかれなければならなくなるだろう、と素直にあきらめました。しかし堀木は「貧乏くさい女」と苦笑したのみでした - IA00458 (2019-11-18 評価=3.50)
俗物の眼から見ると、ツネ子は酔漢のキスにも値しない、みすぼらしい、貧乏くさい女だったのでした。自分は前後不覚になり、眼が覚めたら、ツネ子の部屋に寝ていたのです - IA00459 (2019-11-18 評価=4.00)
夜明けがた、女の口から「死」という言葉がはじめて出て、自分も世の中への恐怖などを考えると、そのひとの提案に気軽に同意しました - IA00460 (2019-11-18 評価=4.00)
その夜、自分たちは、鎌倉の海に一緒に入水しました。そうして、自分だけ助かりました。ニュースバリューがあったのか新聞にも大きな問題として取り上げられたようでした - IA00461 (2019-11-18 評価=3.50)
自分は海辺の病院に収容せられ、親戚の者から生家とは義絶になるかも知れぬ、と申し渡されました。けれども自分は、死んだツネ子が恋しく、めそめそ泣いてばかりいました - IA00462 (2019-11-19 評価=4.00)
深夜、宿直室のお巡りが、ほとんど裁判官のごとく、もったいぶって尋ねるので、自分は、彼の助平の好奇心を、やや満足させる程度のいい加減な「陳述」をするのでした。 - IA00463 (2019-11-19 評価=3.50)
夜が明けて、自分は浅黒い、大学出みたいな署長から、本式の取り調べを受けました。署長はハンカチについたおできの血を見て「血痰が出ているようじゃないか」と言いました - IA00464 (2019-11-19 評価=4.00)
自分は、父の東京の別荘に出入りしていた、書画骨董商の渋田に電話で保証人を依頼しました。お昼すぎ、自分は、若いお巡りと二人一緒に電車で横浜の検事局に向かいました。 - IA00465 (2019-11-19 評価=4.00)
検事の前で、血のついたハンカチで口を押さえて咳をした所、検事は「ほんとうかい?」と、ものしずかな微笑でした。自分は、冷汗三斗、きりきり舞いをしたくなりました。 - IA00466 (2019-11-20 評価=3.50)
■第三の手記 一■ 高等学校から追放された自分は、ヒラメの家の三畳間で寝起きし、故郷からは月々小額の金が送られて来ました。自分には、自殺の気力さえ失われていました - IA00467 (2019-11-20 評価=3.00)
ヒラメは、小さな書画骨董商を営んでいましたが、留守は十七、八の小僧がひとり家にいて、自分の見張り番というわけでした。 - IA00469 (2019-11-20 評価=3.50)
ヒラメは「官立でも私立でも、どこかの学校へはいりなさい」と言えばよいものを、分かりにくい話し方で自分に更生を求め、自分は何とも陰鬱な思いをしました - IA00470 (2019-11-23 評価=4.00)
ヒラメは「お金は、くにから来る事になっているんだから」となぜ一言、言わなかったのでしょう。自分の気持ちも、きまった筈なのに、自分には、ただ五里霧中でした。 - IA00471 (2019-11-23 評価=4.00)
自分は、画家として働きたい、と思い切って言いました。その時の、頸をちぢめて笑ったヒラメの顔の、軽蔑に似た、ずるそうな影を忘れることができません - IA00472 (2019-11-23 評価=4.00)
自分は、今夜一晩まじめに考えてみなさい、と言われましたが、何の考えも浮かびませんでした。あけがたになり、堀木の許へ相談に行くと書き残し、ヒラメの家から逃げました - IA00473 (2019-11-23 評価=4.00)
堀木の名を出したのは、いきなりヒラメにショックを与え、彼を混乱当惑させてしまうのが、おそろしかったばかりに、とでも言ったほうが、いくらか正確かも知れません。 - IA00474 (2019-11-25 評価=3.50)
自分は、堀木のような遊び友達は別として、人とのいっさいの付き合いは、ただ苦痛を覚えるばかりで、人を愛する能力においては欠けているところがあるようでした。 - IA00475 (2019-11-25 評価=4.33)
自分が浅草の堀木をたずねて行くと、彼の都会人としての、冷たく、ずるいエゴイズムを見せてくれました。自分のように、とめどなく流れるたちの男では無かったのです。