人と異なる感性を持つために、自堕落とも思われる人生を歩んでいく主人公、大庭葉蔵。作者自身の私小説とも目される日本文学史に輝く大ベストセラー
- IA00476 (2019-11-25 評価=4.33)
堀木の老母が、おしるこを二つお盆に載せて持って来ました。堀木は「豪気だなあ」と、まんざら芝居でも無いみたいに、ひどく喜び、おいしそうに食べるのです。 - IA00477 (2019-11-25 評価=4.33)
その時、堀木に女の訪問者がありました。堀木は、あわてているらしく、一度差し出した自分の座蒲団を引ったくって、また裏返しにしてすすめました。 - IA00478 (2019-11-27 評価=4.33)
痩せて、背が高い女のひとは雑誌社のひとでした。そこにヒラメから電報が来て、自分はその人と同行することになりました。女は二十八歳で、夫と死別して三年経っていました - IA00479 (2019-11-27 評価=4.33)
自分は、男めかけみたいな生活をしました。五つの女児の遊び相手をしながら、留守番です。一週間ほど、ぼんやり、自分はその女記者のアパートにいました - IA00480 (2019-11-28 評価=4.00)
中学時代に画いた自画像は失われた傑作だったような気がするのです。永遠に償い難いような喪失感があり、あの絵をこのひとに見せてやりたいという焦燥にもだえるのでした - IA00481 (2019-11-28 評価=4.00)
自分は自活したいと念じるものの、シヅ子の奔走のおかげで、故郷からは絶縁せられ、シヅ子と「天下晴れて」同棲という事になり、自分の漫画も案外お金になったのでした - IA00482 (2019-11-28 評価=3.50)
このアパートの人たち皆に、好意を示されているのは自分も知っている、しかし、自分は皆を恐怖しており、皆から離れて行かねばならぬ、不幸な病癖を持っているのでした - IA00483 (2019-11-28 評価=4.00)
堀木が、また自分をたずねるようになり、自分の漫画について、「こわいもの知らずでかなわねえ。しかし、デッサンがなってない」と、師匠みたいな態度をさえ示すのです - IA00484 (2019-11-29 評価=4.00)
世渡りの才能…自分は苦笑の他ありませんでした。堀木は自分の更生の大恩人か、月下氷人のように振る舞い、お説教めいた事を言ったり、五円借りていったりするのでした - IA00485 (2019-11-29 評価=4.00)
世間というものは、個人ではなかろうかと思いはじめてから、自分は、いままでよりは多少、自分の意志で動く事が出来るようになりました - IA00486 (2019-11-29 評価=3.50)
他出版社からも漫画の注文を受けるようになりました。シヅ子が帰ると、交代に外へ出て、高円寺駅近くで安くて強い酒を飲み、アパートに帰ってシヅ子と眠るのが日常でした - IA00487 (2019-11-29 評価=3.50)
自分の飲酒は、次第に量が増えて来ました。新宿、銀座まで出かけ、外泊する事さえあり、さらに野卑な酒飲みになり、金に窮して、シヅ子の衣類を持ち出すほどになりました - IA00488 (2019-11-30 評価=4.00)
一年以上経って、二晩外泊後、戻ったアパートの前でシヅ子とシゲ子の幸福そうな会話が聞こえました。自分は二人をいまに滅茶苦茶にすると思い、それっきり帰りませんでした - IA00489 (2019-11-30 評価=4.00)
自分は、世間に対して図々しく振る舞う事を覚えて来たのです。京橋のマダムには「わかれて来た」とだけ言って、乱暴にもそこの二階に泊まり込む事になったのです - IA00490 (2019-11-30 評価=4.00)
自分は、その店で得たいの知れない存在でしたが、店の常連たちは優しく扱い、お酒を飲ませてくれるのでした。自分は世の中に対して、次第に用心しなくなりました - IA00491 (2019-11-30 評価=3.50)
様々な科学的統計の仮説を「科学的事実」として教え込まれ、現実として受け取り、恐怖していた自分ですが、世の中の実体を少しずつ知ってきたというわけなのでした - IA00492 (2019-12-02 評価=4.00)
自分の現在のよろこびたるや、お客とむだ事を言い合い、お客の酒を飲む事だけでで、上司幾太という匿名で、自分の漫画は粗悪で卑猥な雑誌などにも載るようになりました - IA00494 (2019-12-02 評価=4.33)
ヨシちゃんは、バアの向かいの煙草屋の十七、八の娘でした。厳寒の夜、自分は酔ってマンホールに落ちて、ヨシちゃんに引き上げられ、手当てをしてもらいました - IA00495 (2019-12-02 評価=4.00)
自分はヨシちゃんに「あしたから一滴も飲まない。やめたらお嫁になってくれるかい?」と冗談で言うと、「酒を飲んだ」と言う自分の言葉を信じようとしないのでした