人と異なる感性を持つために、自堕落とも思われる人生を歩んでいく主人公、大庭葉蔵。作者自身の私小説とも目される日本文学史に輝く大ベストセラー
- IA00496 (2019-12-05 評価=4.33)
自分たちは、やがて結婚しました。得た歓楽は、必ずしも大きくはありませんでしたが、その後に来た悲哀は、凄惨と言っても足りないくらい、想像を絶して、大きなものでした - IA00497 (2019-12-05 評価=4.33)
■第三の手記 二■ 煙草屋のヨシ子を内縁の妻とし、築地、隅田川の近くにアパートを借り、二人で住み、漫画の仕事に精を出していると、堀木がまた自分の眼前に現れました - IA00498 (2019-12-05 評価=4.33)
堀木はシヅ子のほうへも遊びに来てくれという伝言を知らせてきました。過去の恥と罪の記憶が、ありありと眼前に展開せられ、恐怖のあまり、堀木と飲みに行きました - IA00499 (2019-12-05 評価=4.33)
自分たちは旧交をあたため、京橋のバアや高円寺のシヅ子のアパートにも行きました。その後、堀木が金を借りに来た際、納涼の宴を張りました - IA00500 (2019-12-05 評価=4.00)
自分たちは悲劇名詞、喜劇名詞の当てっこ遊戯をはじめました。自分たちはその遊戯を、世界のサロンにも嘗て存在しなかった頗る気のきいたものだと得意がっていたのでした - IA00501 (2019-12-05 評価=4.00)
またもう一つ、対義語の当てっこもしてみました。そのうち焼酎の酔い特有の、あのガラスの破片が頭に充満しているような、陰鬱な気分になって来たのでした。 - IA00502 (2019-12-06 評価=4.33)
堀木は内心、自分を、真人間あつかいにしていなかったのだ、いわば「生ける屍」としか解してくれない、と思ったら、さすがにいい気持ちはしませんでした - IA00503 (2019-12-06 評価=4.33)
「おれは女を死なせたり、金を巻き上げたりはしない」という堀木の言葉に、心の何処かに抗議の声が起こっても、いや自分が悪いのだと思い返してしまう習癖があるのです - IA00504 (2019-12-06 評価=4.00)
堀木の「罪の対語は、ミツさ」という言葉に、自分はほとんど生まれてはじめてと言っていいくらいの、烈しい怒りの声がでました - IA00505 (2019-12-06 評価=3.50)
堀木と二人、二階から自分の部屋へ降りる階段の途中で、自分の部屋の上の小窓があいていて、部屋の中が見えます。電気がついたままで、二匹の動物がいました。 - IA00506 (2019-12-07 評価=4.00)
堀木は帰り、自分は起き上がって焼酎を飲み、おいおい声を放って泣きました。いつのまにか、背後に、ヨシ子が立っていました。「なんにも、しないからって」 - IA00507 (2019-12-07 評価=4.00)
神に問う。信頼は罪なりや。ヨシ子が汚されたという事よりも、ヨシ子の信頼が汚されたという事が、自分にとってそののち永く、生きておられないほどの苦悩の種になりました - IA00508 (2019-12-07 評価=4.00)
自分は、人妻の犯された物語の本を、いろいろ捜して読んでみました。けれども、ヨシ子ほど悲惨な犯され方をしている女は、ひとりも無いと思いました - IA00509 (2019-12-07 評価=4.00)
自分は、もはや何もかも、わけがわからなくなり、ただアルコールだけになりました。朝から焼酎を飲み、漫画もほとんど猥画に近いものを画くようになりました - IA00510 (2019-12-08 評価=4.00)
その年の暮れ、夜遅く帰宅した時、自分はヨシ子が砂糖壺の中に睡眠薬を隠しているのを見つけました。自分は薬をすべて飲み、電灯を消してそのまま寝ました - IA00511 (2019-12-08 評価=4.00)
三昼夜、自分は死んだようになっていたそうです。眼が覚めると京橋のバアのマダムとヒラメがいて、自分は「ヨシ子とわかれさせて、女のいないところに行くんだ」と言いました - IA00512 (2019-12-08 評価=4.00)
ヨシ子は、自分がヨシ子の身代わりに毒を飲んだとでも思い込んでいるらしく、自分に対しよそよそしい有様なので、自分もうっとうしく、安い酒をあおる事になるのでした - IA00513 (2019-12-08 評価=3.50)
東京に大雪の降った夜、自分は酔って銀座裏を歩いていて喀血しました。自分は、しばらくしゃがんで、よごれていない個所の雪を両手で掬い取って、顔を洗いながら泣きました - IA00514 (2019-12-09 評価=3.00)
喀血をヨシ子には秘密にしたのですが、自分の喀血が、どうにも不安でたまらず、夜起きて薬屋に行き、薬屋の奥さんに、素直にからだの具合を告白し、相談しました。 - IA00515 (2019-12-09 評価=4.00)
奥さんは、愛情こめていろいろと薬品を取りそろえてくれました。自分が腕にモルヒネを注射すると、不安も焦燥も除去され、甚だ陽気な能弁家になるのでした