思春期の少女の揺れ動く心理と自意識をモノローグ形式で描く太宰治の代表作の一つ。他者や社会との関わりに悩む少女の一日を描いた異色作
- IA00924 (2020-07-11 評価=3.50)
朝は意地悪だ。パチッと眼がさめるなんて嘘。お父さん、と呼んで起き、よいしょ、と蒲団を持ち上げる。お婆さんの掛け声みたいで、いやらしい - IA00925 (2020-07-11 評価=3.57)
寝巻のままで鏡台のまえに座る。眼鏡は嫌いだけれど、眼鏡にはよさもある。眼鏡をとって遠くを見ると、汚いものは何も見えない - IA00927 (2020-07-12 評価=3.57)
お父さんが死んだという事実が不思議になる。長い間逢わずにいる人たちが懐かしい。二匹の犬(カアとジャピイ)が走って来たので、ジャピイを可愛がる - IA00928 (2020-07-12 評価=3.66)
カアは片輪だから可哀想でたまらない。だから意地悪くする。野良犬みたいだし、逃げるのも遅いから早く死ねばいい。涙も出ない。私は涙のない女になったかもしれない - IA00929 (2020-07-12 評価=3.80)
部屋の掃除をはじめると、ふと(古くさい)唐人お吉を唄う。よいしょ、と言ったり、もうだめかと思う。昨日縫い上げた新しい下着を着る - IA00930 (2020-07-12 評価=3.25)
お母さんは気持ちのよい人たちの集まりを作る。両親は違ったところのある夫婦だったけど、お互いに尊敬しあっていたらしい。また、私は変な錯覚を起こすことがある - IA00931 (2020-07-13 評価=3.16)
遠くの田舎道を歩いていていつも前に来た道と思う。ふと手を見て、何年かたって湯に入って手を見て、この情景を思い出すと思うと暗い気がした - IA00932 (2020-07-13 評価=3.33)
御飯をおひつに移していると、インスピレーションが走って、美しく軽く生き通せるような感じがした。その感じが続くと神がかりになるのかしら - IA00933 (2020-07-13 評価=3.66)
私はひまで生活の苦労がないから、感受性がポカポカ浮いてくる。五月のキュウリの青味には悲しさがある。旅行に出たい。本の広告文が楽しい - IA00934 (2020-07-13 評価=3.66)
登校にお母さんからもらった雨傘を携帯。こんな傘を持ってパリイの下町を歩きたい。もの憂そうに頬杖して人の流れを見ていると、誰かがそっと私の肩を叩くに違いない - IA00935 (2020-07-14 評価=3.66)
出がけに門の前の草をむしる。森の小路を歩くと、麦が二寸(6センチ)ほどに育っていて、今年も兵隊さんが馬で通った時にこぼした麦が伸びたんだと思う - IA00936 (2020-07-14 評価=3.66)
駅近くで一緒になった労働者数人が、厭な言葉を吐きかけてきた。さきに行ってしまいたいのだが、すり抜けるのはおっかない。やり過ごす方法がわからなくて泣きそうになる - IA00937 (2020-07-14 評価=3.33)
私は笑ってごまかして労働者達のあとについて歩いた。電車では、席に道具を置いていたのに眼鏡の男にとられてしまった。仕方なく道具は網棚に乗せて、吊り革にぶらさがった - IA00938 (2020-07-14 評価=3.66)
自分から、本を読むということを取ってしまったら、経験の無い私は泣きべそをかくだろう。人のものを盗んで、自分のものに作り直す才能とずるさは私の唯一の特技だ - IA00939 (2020-07-15 評価=3.50)
読む本がなくなって、お手本がなくなったら手も足も出ない。自分の弱いところに気付くと、甘くおぼれてしまうから批判も何もない - IA00940 (2020-07-15 評価=3.25)
雑誌を読んでいると「若い女の欠点」についての記事があった。おしゃれな感じのする人、宗教家、教育家、政治家、それぞれの人の意見が書いてある - IA00942 (2020-07-15 評価=3.66)
けれども書かれている言葉全部が、ただ書いてみただけのようだ。あれもいけない、これもいけないばかり。こうしろ、ああしろと言われた方がやりやすい