夏目漱石の夢に登場する愛・希望・不安・恐怖を意識化した幻想の物語。孤独な文豪が100年後の読者を意識して執筆したと言われる連作ファンタジー作品
- IA01420 (2020-12-17 評価=4.00)
■第一夜(死んだ女を百年待つ話)■ 仰向きに寝た女が、静かな声でもう死にますと言う。潤いのある真っ黒な眸の奥に、自分の姿が鮮やかに浮かんでいる - IA01421 (2020-12-17 評価=3.66)
女は「死んだら、大きな真珠貝で穴を掘って、埋めて下さい。天から落ちて来る星の破片を墓標にして、墓の傍に待っていて下さい。また逢いに来ますから」と言った - IA01422 (2020-12-18 評価=3.60)
いつ逢いに来るのか尋ねた。女は「百年、私の墓の傍に座って待っていて下さい」と言うので、自分は待っていると答えた。女の眼がぱちりと閉じて涙が垂れると、女は死んでいた - IA01423 (2020-12-18 評価=3.90)
自分は庭へ下りて真珠貝で穴を掘り、遺体を入れた。その上に土を掛け、星の破片を乗せた。大空を落ちている間に角が取れたのか、星の破片は丸かった - IA01424 (2020-12-19 評価=3.60)
自分が苔の上に座ると、日が東から出て西へ落ち、一日二日と勘定した。日数が分からなくなったが、百年はまだ来ない。しまいには、女に欺されたのではないかと思い始めた - IA01426 (2020-12-20 評価=3.66)
■第二夜(悟りを得られず苦しむ侍の話)■ 和尚のところから自分の部屋に帰ると、チョウジの花がぱたりと落ちて明るくなり、仏教画や山水画がよく見えた。 - IA01427 (2020-12-20 評価=4.00)
和尚が侍に、侍なら悟れぬはずはなかろうと言った。怪しからん。どうしても悟らなければ、侍である自分は自刃する。侍が辱められて、生きている訳にはいかない - IA01428 (2020-12-21 評価=3.00)
布団の下から短刀を引きずり出した。赤い鞘を払うと冷たい刃が光り、殺気を一点にこめている。唇が震えた。刀を鞘へ収めて座禅を組み、奥歯を強くかみしめる - IA01429 (2020-12-21 評価=3.00)
和尚を思いだして、怪しからんと思う。悟ってやる。無だ、無だ。自分の頭を殴り、奥歯を噛んだが、両腋から汗が出て膝が痛くなった。苦しい。無はなかなか出て来ない - IA01431 (2020-12-22 評価=3.50)
■第三夜(妖怪を背中におぶる恐怖の話)■ おぶっている六つになる自分の子が、いつの間にか妖怪に変わっていた。怖くて投げ捨てようと周囲を見ると、闇の中に森が見えた - IA01432 (2020-12-22 評価=3.50)
小僧は「お父さん、重いかい? 今に重くなるよ」と言った。あぜ道が不規則で森に行けず、二股の辻で困っていると小僧は「左がいいだろう」と命令した。自分はちょっと躊躇した - IA01433 (2020-12-22 評価=3.50)
小僧が背中で文句を言うので、自分は厭になり、早く森に捨てようと急いだ。すると、小僧が「もう少し行くとわかる――ちょうどこんな晩だったな」と独り言のように言っている - IA01434 (2020-12-23 評価=4.00)
「何か、知ってるだろう」と子供はあざけるように言う。小僧は自分の過去、現在、未来をことごとく照らす鏡のようだ。そして「ここだ。ちょうどその杉の根の所だ」と言った - IA01435 (2020-12-23 評価=4.00)
森の中で、すぐ先にある黒いものはたしかに杉の木だった。「その杉の根の所だね」――秘められた過去とは? そして子供(小僧)は? - IA01436 (2020-12-25 評価=3.00)
■第四夜(不思議な爺さんの蛇踊りの話)■ 床几(腰掛け)が並ぶ土間で爺さんが一人酒を飲んでいる。手桶に水を汲んで来た神さんが年を尋ねても「忘れたよ」と澄ましていた - IA01437 (2020-12-25 評価=3.00)
神さんが爺さんの家がどこかと尋ねると「へその奥だよ」と答える。「どこへ行くかね」と聞くと「あっちへ行くよ」と茶化す。爺さんの吹いた息が河原の方へ真っ直ぐに行った - IA01438 (2020-12-25 評価=3.00)
爺さんは柳の下まで行き、三四人の子供の前で浅黄の手拭いを細長く絞って地面に置いた。周囲に丸い輪を描くと飴屋の笛を出して「手拭いが蛇になる、見ておろう」と繰り返した - IA01439 (2020-12-26 評価=3.00)
爺さんは笛を吹いて輪の上を回り出したが、手拭いは動かない。やがて爺さんは肩に掛けた口を開けて、手拭いの首をつまんで放り込み「箱の中で蛇になる」と言って歩き出した