幸徳秋水39歳。戦争礼賛の時代、非戦論を主張した彼は明治天皇暗殺計画に関与したとして逮捕され、証拠不十分のまま死刑を宣告された。
死刑を前に、冷静に死生観を綴ったエッセイです
- IA03314 (2023-03-09 評価=5.00)
母でさえかかる成り行きについてはおどろかず、母のことは心配するな、と言ってきた。死刑のため監獄にいるのは、病気治療で福祉施設にいるのと同じだ - IA03315 (2023-03-09 評価=4.00)
■二 無量無限の形体には、すでに始めがあり、かならず終わりがなければならぬ。これは地球およびすべての遊星の運命でもある - IA03317 (2023-03-10 評価=5.00)
恐怖の原因は、1)夭折し生を味わえないこと 2)家族と別れ一人死する心細さ 3)財産を捨てるくやしさ 4)事業の中断 5)子孫の行く末の憂慮 6)臨終の苦痛、などの事情にある - IA03319 (2023-03-10 評価=5.00)
だが死は親愛・尊敬・信頼する人を失った生存者にはいたましい。生存者の悲哀がくりかえされて、誰もが死をおそれるに至った。死者に悲しみはない。みじめなのは生別である - IA03320 (2023-03-10 評価=5.00)
人間には自己保存本能があるが、種保存のためには自己破壊をかえりみない。前者は利己主義となり、後者は博愛心となる。矛盾するが本来一致・合同させねばならぬものである - IA03321 (2023-03-11 評価=4.00)
種保存は健全なる生活から出て、新陳代謝する。果実をむすぶために花はよろこんで散る。問題は、死にいたるまでいかなる生を送ったかにある。 - IA03322 (2023-03-11 評価=5.00)
■三 天寿をまっとうすることが万人の望みであろう。幾百年かの後、文明が進歩した世の中になれば、人はたいてい天寿をまっとうすることを得るであろう - IA03323 (2023-03-11 評価=5.00)
そのような世の中が早く来ることを望むものの、病原菌が充満し、事故が多く、株や相場も乱高下している今日、自然死は僥倖といわねばならない - IA03324 (2023-03-11 評価=5.00)
多数の権力なき人、富なき人、よわき人などは栄養不足や、過度の労働、有毒の空気などが原因で、天寿の半ばにも達せず死に失せる。事故死も多く、貧困による自殺もある - IA03325 (2023-03-12 評価=5.00)
人間社会では、わたくしのような弱く愚かな者には天寿は望めないし、始めから望まない。人生の社会的価値は人格・事業・広大など周囲・後代への感化・影響にあると信じる - IA03326 (2023-03-12 評価=4.00)
天寿をまっとうできない人が大多数なのだから、自己の分相応の善良な感化・影響を社会にあたえ残しておきたいものだと思う。正岡子規、伯夷らの死は感嘆すべきである - IA03328 (2023-03-13 評価=5.00)
もし赤穂浪士がゆるされていたら、彼らすべて光栄ある余生を送っただろうか。彼らは満足・幸福に感じて切腹した。死に所を得た死はむしろ賀すべきものだと思う - IA03329 (2023-03-14 評価=4.00)
■四 といって、長寿をきらうわけではない。伊能忠敬、趙州和尚、孔子などのように老いるにしたがって、ますます識高く徳がすすむ人もいる - IA03330 (2023-03-14 評価=4.00)
長寿は尊貴かつ幸福だが、才能のある者が長寿となる例は少なく、世を益す事なく、苦しい日々を送る長寿者は夭死(若死に)におよばない。健康・知識は絶頂となる時代がある - IA03331 (2023-03-15 評価=5.00)
「働きざかり」の時代である。元気・精力を要する事業は働きざかりをすぎてはほとんどダメである。古来の革命も、つねに青年の手によってなされてきた