江戸川乱歩が絶賛した谷崎潤一郎の探偵小説。入力しやすい作品で、確率を積み上げ殺人を行うアイデアは、誰しも自分なら、と考えてしまうでしょう
- IA03465 (2023-05-15 評価=3.33)
会社員の湯河勝太郎は夕刻金杉橋を散歩している時、面識のない紳士から声をかけられた。その紳士は堂々としていて、会社の重役に似ていた - IA03466 (2023-05-16 評価=3.00)
男は高級な毛皮の外套を着た四十恰好の太った正装の紳士で、湯河に「社員の身元調査で安藤氏との面会を乞う」とメモ書きされた親友の名刺と、私立探偵安藤一郎の名刺を渡した - IA03467 (2023-05-16 評価=3.00)
湯河は私立探偵に会うのは初めてで、安藤は「さきほど会社をお訪ねしたところです。いま少しお時間をいただけないでしょうか」と話した - IA03468 (2023-05-17 評価=4.00)
安藤は「お宅へお伺いするほどの用件ではないので、散歩しながら話していただければ結構です」と言って軽く笑う。湯河はボーナス日だったので少々困ったと思った - IA03469 (2023-05-17 評価=3.00)
なぜなら、湯河は銀座に行って妻にプレゼントでも買おうと思っており、会社から追っかけて来たという安藤を不愉快に感じたからだ。安藤はある人の身元を確認したいと言った - IA03470 (2023-05-18 評価=4.00)
明日家へ来られるのも迷惑だと思い、湯河は仕方なしに応ずることにして歩き出した。湯河が結婚のための身元調べか尋ねると、彼は「推察の通り」と答えた - IA03471 (2023-05-18 評価=4.00)
安藤は湯河本人が調査対象だと言う。「僕はもう結婚していますよ」と湯河が伝えると、安藤は「まだ法律上の手続きは済んでいないでしょう?」と答えた - IA03472 (2023-05-19 評価=4.00)
湯河は妻の実家からの調査依頼だろうと思ったので、何でも聞いてほしいと申し出た。安藤は「本人に聞かないと分からない問題もあるので助かる」と言った - IA03473 (2023-05-19 評価=3.00)
安藤は湯河に同情していると言い、湯河の妻と早く実家が和解しないと、籍を入れるのに時間がかかるから、そのためには湯河を先方へ理解させることが肝心だ、と説明した - IA03474 (2023-05-20 評価=4.00)
安藤は、湯河が大正二年に大学を卒業、その年の九月にT・M会社へ入社、十月に先妻と結婚、そしてその先妻が大正八年の四月にチフスで亡くなったことを湯河に確認した - IA03475 (2023-05-20 評価=4.00)
湯河は先妻を愛していたが、現在の妻久満子がその未練を癒やしてくれたので、彼女と正式に結婚する義務を感じている、と伝えた。安藤はチフスで亡くなった先妻の話を始めた - IA03476 (2023-05-21 評価=4.00)
安藤が「先妻の筆子さんは、チフスの前に大正6年10月頃重いパラチフスにかかり、翌年の正月も風邪で五、六日寝ていらしたそうですね」と尋ねたので、湯河はうなずいた - IA03477 (2023-05-21 評価=5.00)
安藤は、筆子がその後二度腹を下したこと、秋と翌年の正月に流行性感冒にかかったこと、いずれも治りはしたが、ふた月ほどしてかかったチフスで亡くなったことを指摘した - IA03478 (2023-05-22 評価=4.00)
安藤はさらに、筆子が亡くなる前半年の間に二度も大患いだけでなく、ガス漏れ窒息事件、乗合自動車(バス)での衝突事故と、胆を冷やすような危険な目にあったことに触れた - IA03479 (2023-05-22 評価=4.00)
湯河は関係ない質問だと抗議したが、安藤は取り合わず話を続けた。安藤は衝突の際、ガラスの破片で彼女が額に怪我をしたことに触れ、湯河にも多少責任があると言った - IA03480 (2023-05-23 評価=4.00)
「乗合自動車で行け、と言いつけたでしょう」と安藤は理由を説明した。湯河は「直前に二度も流行性感冒にかかったし、人ごみを避けるよう言っただけです」と反発した - IA03481 (2023-05-23 評価=4.00)
「けれども、あの自動車事故だけはあなたに責任があると思いますね。衝突は予想できませんが、奥様は病院に頻繁に通っていらした」と安藤は続けた - IA03482 (2023-05-24 評価=4.00)
(安藤)「当時は乗合自動車(バス)運用が始まった頃で、とても事故が多かった。奥様を自動車へお乗せになるなんて、あなたのように神経質な人には似合いませんね」 - IA03483 (2023-05-24 評価=4.00)
(湯河)「乗合自動車の衝突の危険と、感冒に感染する危険。どちらのプロバビリティ―(確率)が高く、どちらがより生命に危険があるか考えると、前者がましだと思ったのです」 - IA03484 (2023-05-25 評価=4.00)
(湯河)「筆子は流行性感冒にかかりやすい体質だし、肺炎を起こすと助からない。しかし衝突ならよほど不運でなければ、大怪我をすることはありません」