「偸盗(ちゅうとう)」は美しい盗賊団の女首領と、彼女に振り回される太郎と次郎の兄弟の物語。芥川龍之介が描く平安の都を舞台にした愛憎と狂気の世界
- IA04155 (2024-07-14 評価=4.00)
沙金の念押しに男は「おれがひきうけたからは、大船に乗った気でいるがいい」と、笑って沙金の頬を突っついた。二人はしばらくふざけ合っていたが、やがて別れた - IA04156 (2024-07-14 評価=5.00)
沙金が次郎に声をかけ、二人は石段に腰をおろした。沙金は中肉の二十五六の女で、敏捷さのある野性と美しさの混じった顔をしている。「あれは、藤判官の所の侍」と沙金は言った - IA04157 (2024-07-16 評価=5.00)
沙金が「あいつのおかげで、屋敷の様子がすっかりわかったわ。買った馬の話をしてたけど、太郎さんに盗ませようかしら」と言うと、次郎が「兄きはお前の言うなりだからな」と返した - IA04158 (2024-07-16 評価=4.00)
「やきもちやきは大きらい。太郎さんも、今じゃなんでもないわ」と沙金が怒ると、次郎は「お前は女夜叉さね」と言った。すると女は「いい事を教えてあげましょう」と言い出した - IA04159 (2024-07-17 評価=5.00)
沙金は「あいつに藤判官の屋敷を襲う事を話したの。今夜、五六人の男があなたの所を襲う相談をしているのを聞いたって。だからきっと多くの侍の手くばりがあるわ」と言った - IA04160 (2024-07-17 評価=5.00)
「あなたのためにしたの。太郎さんに馬を盗む事を頼めば、かなわないでしょう」と沙金は言った。次郎が兄きを殺すのかと尋ねると、沙金は「あなたに殺せて?」と返した - IA04161 (2024-07-18 評価=5.00)
つい次郎が「兄き一人ならしかたないが、仲間まで…」と言うと、女は言葉を聞き逃さず「太郎さんを殺していいなら、仲間なんか何人殺してもいいでしょう」と言い放った - IA04162 (2024-07-18 評価=5.00)
沙金は「あなたのためなら、誰を殺してもいい。もう侍に話してしまったから、取り返しはつかないの」と言った。次郎は絶望的な勇気を感じ、沙金の手を握りしめた - IA04163 (2024-07-21 評価=3.00)
■五 太郎は踏み込んだ家で意外な光景に驚いた。中では、十六七の身分の低い女(阿濃)が、酒太りではげ頭の老人に髪をつかまれ、瓶子の液体を口につぎこまれようとしていた - IA04164 (2024-07-21 評価=4.00)
太郎は部屋におどりこむと、瓶子をもぎとり、何をする、と一喝し、老人を蹴倒した。助かった阿濃は太郎の前に手を合わせて頭を下げた - IA04165 (2024-07-21 評価=4.00)
阿濃はそのまま脱兎のごとく外に逃げ、猪熊の爺(おじ)は「人殺し」とわめきながら逃げようとした。太郎は爺を引き倒し、太郎は「たれがおぬしなぞ殺すものか」とあざ笑った - IA04166 (2024-07-21 評価=4.00)
だが、爺は「うそじゃ、おぬしはいつもわしを殺そうと思うている」とわめき立てる。太郎は「なんで阿濃をあのような目にあわせた? しさいを言え」と迫った - IA04167 (2024-07-22 評価=5.00)
(爺)「わしが薬をのまそうとしても、どうしても飲まんから、つい手荒になったのじゃ」(太郎)「堕胎薬か? 非道な事を」(爺)「それ見い、言えばおぬしはわしを殺す気になるわ。人殺し」 - IA04168 (2024-07-22 評価=4.00)
太郎は殺すなら今、と思ったが、老人のうなじを見て不思議に憐憫を感じた。その隙に爺は絶叫しながら、はね起き遣戸の陰に隠れて逃げようとした。太郎は殺さなかった事を後悔した - IA04169 (2024-07-23 評価=4.00)
(爺)「殺せば親殺しじゃ。義理の子の沙金につながるおぬしは子じゃ」(太郎)「その子ともつながるおぬしは、畜生か」(爺)「畜生でも親殺しはせん」 - IA04171 (2024-07-24 評価=5.00)
(爺)「おばばとは昔なじみで、わしはおばばを懸想していた。そのうち、わしはおばばに情人がある事を知った」(太郎)「おぬしは、きらわれたのだ」 - IA04172 (2024-07-24 評価=5.00)
(爺)「わしがきらわれた証拠にならぬ。そのうちおばばはその情人の子を生むと、行き方がわからなくなった。それから十五年たって、おばばに再会した――」 - IA04173 (2024-07-25 評価=4.00)
猪熊の爺は涙声で「もう昔のおばばではなかった。だが、子供の沙金は昔のおばばに似ていて、沙金と別れまいと思い、おばばを妻にしようと思い切ったのじゃ」と言った - IA04174 (2024-07-25 評価=5.00)
爺は「わしが命にかけて思うたのは、昔のおばば、今の沙金一人ぎりじゃ。憎ければ、今ここでわしを殺せ。さては、阿濃をはらませたのは、おぬしだろう」と言った