「偸盗(ちゅうとう)」は美しい盗賊団の女首領と、彼女に振り回される太郎と次郎の兄弟の物語。芥川龍之介が描く平安の都を舞台にした愛憎と狂気の世界
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太郎の顔には微笑はない。だが心の中では何ものかが「走れ走れ」と叫び、「羅生門は遠くない」と、太郎は半ば無意識に馬の腹を蹴った - IA04216 (2024-08-17 評価=4.00)
彼のくちびるから「弟」ということばが口をつき、心を打った。彼は狂気のように身を翻すと、片手の手綱をぐいと引いた - IA04217 (2024-08-18 評価=4.00)
太郎は馬を戻すと「次郎」と叫んだ。次郎は馬上の兄に気付くと、彼の熱い片目にほとんど憎悪に近い愛が燃え立っているのを見た - IA04218 (2024-08-18 評価=5.00)
太郎は「早く乗れ、次郎」と言った。次郎が馬の首におどりつくと、太郎は手をのばして次郎が馬の背に乗るのを助けた。栗毛は太郎に腹を蹴られて、尾を宙に振るった - IA04219 (2024-08-19 評価=4.00)
次郎は何年も感じた事のない、静かで力強い安息を感じ、「にいさん」と発して涙を落とした。一時間ほど後、二人は朱雀大路に馬を進めていた - IA04220 (2024-08-19 評価=4.00)
■八 羅生門の下で、藤判官の屋敷から引き揚げてきた偸盗の一群はけがの手当てに忙しかった。特に猪熊の爺は重傷で、あおむけに横たわってうめいていた - IA04221 (2024-08-20 評価=3.00)
瀕死の爺が「おばばはどうした」とうなった。平六が「おばばはもう極楽へ行ってしもうた」と答えて、沙金を振り返った - IA04222 (2024-08-20 評価=4.00)
平六は沙金に「爺にとどめを刺そうか」と尋ねたが、彼女は「自然に死なしておやり」と答えた。爺は人を殺す興味や勇気を示すため、今まで何人も重傷の仲間にとどめを刺した事を思い出した - IA04223 (2024-08-22 評価=3.00)
猪熊の爺はまぶたを開いた。自分が死ぬ。それなのに仲間は何事もないように騒いでいる。爺は説明できない怒りと苦痛を感じた - IA04224 (2024-08-22 評価=5.00)
「太郎さんはどうした」とたずねる声が聞こえた。爺の周囲から、切りあっているのを見た、まず助かるまい、次郎さんも見えない、などの声が相次いだ - IA04225 (2024-08-23 評価=4.00)
爺は思った。太郎もおばばも死んだ。自分もすぐに死ぬであろう。自分は死にたくないが、死が自分の息をうかがっているのを感じた - IA04226 (2024-08-23 評価=4.00)
誰かが「阿濃が見えぬ」と言い出し「この上で寝ておろう」と答える者がいた。かすかに猫の声が聞こえ、花のにおいがした。沙金が「たれか行って見てきておくれ」と言った - IA04227 (2024-08-24 評価=5.00)
平六が楼上に上がると、平六がわめく声がした。おりて来ると「阿濃が子を産みおったわ」と古着にくるんだ赤ん坊を見せた。赤ん坊は醜い顔で泣き立てている - IA04228 (2024-08-24 評価=4.00)
平六は「阿濃がうなっているから、最初は腹でも痛いのかと思ったが、足もとで泣いているものを月明かりに見ると、生まれたばかりの赤子じゃ。阿濃もおふくろじゃ」としゃべり立てた - IA04229 (2024-08-26 評価=4.00)
十五六人の盗人が、松明の前に立った平六のまわりを囲む。赤ん坊がけたたましく泣きはじめると、みなはどっと笑った。それを聞いて猪熊の爺が力を振り絞って声をかけた - IA04230 (2024-08-26 評価=4.00)
「その子を見せてくれ」爺の声に、平六が身をかがめて抱いた赤ん坊を見せた。爺は涙を流し表情をやわらげたが、その様子を見た一同は彼を捕らえた「死」を察した