千葉の農家に生まれた政夫と、民子の清純な恋の物語。現代とは習慣も価値観も異なる明治時代の話ながら、涙が止まらない伊藤佐千夫の不朽の名作です
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母がすきにしなさいと言ったので、民子は股引をやめて、たすきと前掛けに草履姿。他に一人ずつ大きなザルを持ち、僕は大きなカゴとカゴを吊るす天秤棒を肩にかけた - IA04324 (2024-11-06) NEW
この日は天気もよく、村はずれの坂の降り口から見おろすと田んぼの風景が綺麗だった。二人が坂を降りて話しながら歩いていくと、田んぼ側の道端にいろいろな花が咲いていた - IA04325 (2024-11-07) NEW
僕が野菊の花を一握り採った。民子は自分が野菊の生まれ返りと思うほど野菊が好きだ、と言う。僕は民さんを野菊のような人だと言って、採った野菊を半分あげた - IA04326 (2024-11-07) NEW
野菊の様な人と言った後で「僕、野菊が大好きさ」と言ってしまったので、僕はそれ以上何も言えなくなり、しばらく無言で歩く。まことに民子は野菊の様な子であった - IA04327 (2024-11-08) NEW
しばらく黙って歩いた後、何を考えていたのか尋ねてみると、民子は「私はどうして政夫さんより年が多いのか、情けなく思っていました」と答える - IA04328 (2024-11-08) NEW
どちらかがほんの少し押しが強ければ、二人の恋は進んだのかもしれないけれど、とりとめのない卵的な恋は、すぐゆきつまってしまう - IA04329 (2024-11-09) NEW
「四キロ以上の道のりの半分位は来ましたか」と民子が尋ねたので、「半分以上来たでしょう」と答える。そして民子がススキの葉で手を切ったと言うので紙を裂いて結わえてやる - IA04330 (2024-11-09) NEW
八時少し過ぎと思う時分に畑に着いた。十年ばかり前に親父が親戚に頼まれて仕方なく購入した遠隔地の畑だが、綿は風でこぼれそうなほど成熟していた - IA04331 (2024-11-10) NEW
畑の真ん中の桐の木の枝に弁当をぶら下げ、上着を脱いで足をのばして休む。「極楽の様な日ですね」と言うと、民子は「今朝はきまりが悪かったけど、今は夢の様な気がするわ」と言う - IA04332 (2024-11-10) NEW
「今日は面白く遊ぼう。僕は来月は学校へ行くし、二人会えるのも今日だけかもしれない」「私もそればかり考えてました」などと話をしていると、山路を村の常吉が通りかかった - IA04333 (2024-11-11) NEW
常吉は「ご夫婦で綿採りとはしゃれてますね」と言う。笑いとぼけてやり過ごしたが「厭なやつだ。民さん、元気を出して。僕は土日で帰ることもできるんだから」と慰める - IA04334 (2024-11-11) NEW
綿採りは三時間ばかりで七分通り片づいたので、弁当にする。水筒を手に「僕は山の中の湧き水で水を汲んで来るから待っててください」と言うと、民子は自分も行くと駄々をこねる - IA04335 (2024-11-12) NEW
結局一緒に行く事になるも、嬉しい押し問答であった。それに、これまで有意味に手に触れた事もなかったのに、道なき道を行く際にしばしば民子の手を取る。愉快の感情がこみ上げた - IA04337 (2024-11-14) NEW
山の仕事の後にたべる弁当は不思議とうまく、二人でしばらく話をする。アックリはあかぎれの薬になるからお増にあげると言うと、民子は最近のお増は私に意地悪だとぐちをこぼす - IA04338 (2024-11-14) NEW
「焼餅だよ。僕がアックリをお増にやると言うと民さんもぐちを言うじゃないか」「口の悪い政夫さん。お増の焼餅位承知しています」「お増も両親がいないしかわいそうなんだ」等と会話 - IA04339 (2024-11-15) NEW
民子は文句を言いながら話を転じ、りんどうの花を手に取り「わたしりんどうが好きになったわ。政夫さんはりんどうの様な人」と言いつつ、顔をかくして笑う - IA04340 (2024-11-15) NEW
らちもなき事を話して喜んでいるうちに、秋の日は傾いてきた。一時間半ばかりで綿をもぎ終えると二人で荷物をかついで帰り始める。道を半分戻った所で、蕎麦の畑で休むことにする - IA04342 (2024-11-16) NEW
だが、遅くなった不安で無言の時間が過ぎる。家に着くと、二人とも家に入りづらい。僕が先に土間に入ると、皆夕飯の最中らしい