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押絵と旅する男 (江戸川乱歩) 48分割入力文の数= 48 <<  1  2  3   >>

北陸から帰る汽車で出会った、押し絵を窓に立て掛ける男。年齢不明の彼は不可思議な物語を私に語り始めた。江戸川乱歩エッセンス満載の傑作ホラー

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  • ファンタジー
    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    353
    IA02840 (2022-08-02 評価=4.00)

    いつとも知れぬ、ある暖かい薄曇った日のことである。その時、私はわざわざ富山県の魚津(うおづ)に蜃気楼を見に出掛けた帰り道であった
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    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    359
    IA02841 (2022-08-03 評価=5.00)

    帰り道にあった事は夢であったのか? だが、私には押し絵の画面を中心に、情景が生々しく私の記憶に焼きついている

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    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    370
    IA02842 (2022-08-03 評価=5.00)

    蜃気楼は、乳色のフィルムの表面に墨汁をたらしたように、自然にジワジワとにじんで行った。大空に映し出した巨大な映画の様なものであった
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    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    388
    IA02843 (2022-08-06 評価=5.00)

    蜃気楼は見る者との距離が非常に曖昧で、遠くの海上に漂う様でもあり、眼の前のもやのようにも見える。この距離の曖昧さが、不気味な気違いめいた感じを与える

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    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    361
    IA02844 (2022-08-06 評価=5.00)

    魚津の駅から上野の汽車に乗ったのは、夕方の六時頃で、二等車(グリーン車相当)には一人先客がいるばかりであった。汽車は海岸の崖や砂浜の上を走っている
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    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    390
    IA02845 (2022-08-07 評価=5.00)

    風光明媚な新潟県糸魚川の親不知(おやしらず)の断崖を通過して夕闇が迫り、その同乗者は、窓に立てかけてあった額らしきものを風呂敷に包み始めた。その時妙な感じがした

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    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    379
    IA02846 (2022-08-07 評価=4.50)

    チラと見えた額に描かれた極彩色の絵が、世の常ならず見えたからでもあった。荷物の持ち主は古風な背広を着て、一見四十前後だが、よく見ると皺が多く六十位にも見えた
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    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    351
    IA02847 (2022-08-08 評価=4.50)

    彼が丁寧に荷物を包み終わった時、私と目が合って幽かに笑ったので、私は挨拶を返した。それから何回か視線をまじえた

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    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    398
    IA02848 (2022-08-08 評価=5.00)

    私は西洋の魔術師の様な風采のその男が、段々怖くなって来た。その男がいとわしく、恐ろしければこそ、私はその男に近づいて行ったのであった
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    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    392
    IA02849 (2022-08-09 評価=5.00)

    男は例の扁平な荷物を指し示し、「これが御覧になりたのでございましょう」と尋ねた。私は相手の調子に引き込まれ「見せて下さいますか」と言った

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    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    399
    IA02850 (2022-08-09 評価=5.00)

    男は大風呂敷をほどき、窓に立てかけた。額には幾つもの青だたみと格子天井の続き部屋が、極度の遠近法で向こうまで続いている光景が、藍を主とした泥絵の具で描かれていた
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    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    360
    IA02851 (2022-08-10 評価=5.00)

    その部屋を背景に、彼と同じ背広を着た彼そっくりの老人と、振袖を着た美少女がなまめましく笑いながら老人の膝にしなだれかかっている様子が、押し絵細工で浮き出していた

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    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    339
    IA02852 (2022-08-10 評価=5.00)

    背景の粗雑さに比べ、押し絵は精巧で、白絹の凹凸で細い皺を作り、髪は本当の毛髪を丹念に植えてある。洋服には縫い目があり、娘の身体の曲線や指先まで表現されている
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    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    354
    IA02853 (2022-08-11 評価=5.00)

    私は、羽子板の役者絵しか押し絵を見たことがなかったが、この額ははるかに巧緻を極めていた。古く色あせはあるが、奇妙な点は押し絵の人物が二つとも生きていたことである

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    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    304
    IA02854 (2022-08-11 評価=5.00)

    文楽で、名人の人形が一瞬間、本当に生きている(様に見える)ことがあるが、その瞬間をそのまま板にはりつけた感じなのである。老人は楽しそうに、双眼鏡を取り出した
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    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    345
    IA02855 (2022-08-12 評価=5.00)

    老人は「この遠眼鏡で御覧下さい」と異様な依頼をした。私は好奇心から遠眼鏡を手にとり、数歩遠ざかった。昔よく見かけた、変わった形の古いプリズム双眼鏡だった

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    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    337
    IA02856 (2022-08-12 評価=5.00)

    私が誤ってさまさまに覗こうとすると、老人は真っ青になり「いけません」と連呼した。理由は分からなかったが、私は正しい方向に持ち直し、押し絵の人物を覗いたのである
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    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    403
    IA02857 (2022-08-13 評価=5.00)

    大きな娘の胸から上が、私の眼界一杯に拡がった。水の層の複雑な動きで揺れる海女の裸身が、浮き上がるに従って、形がハッキリしてくるかのようであった

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    投稿 TypetrekJさん
    文字数
    346
    IA02858 (2022-08-13 評価=5.00)

    押し絵の中に色娘と白髪男が奇怪な生活を営んでいる。私は変てこな気持ちで、その不可思議な世界に見入った。娘は生気に満ち、桃色に上気していた
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    投稿 TypetrekJさん
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    360
    IA02859 (2022-08-14 評価=5.00)

    老人は、見た所四十程も年の違う、若い女の肩に手を回して幸福そうでありながら、顔のたくさんの皺の底で、いぶかしく苦悶の相を現し、悲痛と恐怖の異様な表情を呈している