蘭学の修業後、小石川養生所に赴任した新人医師、保本登。所長赤ひげに不満を持つが…。黒澤明の名作映画「赤ひげ」原作として有名な傑作娯楽小説 第一篇
- IA03704 (2023-09-10 評価=4.00)
■一 保本登は二日酔いだった。たった三年、自分を待ってくれなかったちぐさの事をうらみながら、小石川養生所の門前にやってきた。そこに医師らしい青年が外から戻ってきた - IA03705 (2023-09-11 評価=3.00)
青年医師は登に気づき、彼を中へ案内してくれた。青年は津川玄三と名乗り、登と交代で出て行くのだ、と言った。登はいぶかしく思いながらも、長崎に三年遊学した話をした - IA03706 (2023-09-11 評価=3.00)
津川は貧民ばかりのひどい養生所だと、言った。小砂利を歩いて行くと、かなり痛んだ建物につき当たり、登は津川と一緒に履物を脱いで玄関にあがった - IA03707 (2023-09-12 評価=4.00)
廊下を曲がったところに、診察待ちの貧しい患者たちが大勢いた。津川が奥の部屋の前で名乗ると、赤ひげの声がした。障子をあけると中は縦長の古い診察室だった - IA03708 (2023-09-12 評価=3.00)
窓は北向きで、戸棚の引き出しには薬品の名札が貼ってある。津川が保本登を同道したことを告げると、小机でなにか書いていた老人はは、こちらへ向き直った - IA03709 (2023-09-13 評価=3.00)
赤ひげは濃い眉毛に力強い眼を持った、40代のように精悍で60代のようにおちついた男だった。彼は新出去定(にいできょじょう)と名乗り、登に見習いとしてここに詰めろと言った - IA03710 (2023-09-13 評価=3.00)
■二 保本登は父が町医者で、幕府の表御番医、天野源伯にも御目見医に推薦する約束を得ていた。医員見習いは不服ではあったが、小石川養生所に住みこむことにした - IA03711 (2023-09-15 評価=3.00)
津川は同じ見習いの森半太夫を登にひきあわせた。27-8歳に見える陰気な顔をした男だが、言葉にとげがあるような気がした。津川は彼とは気が合わないが、秀才だと評した - IA03712 (2023-09-15 評価=4.00)
案内された登の部屋は六帖北向きの薄暗い部屋で、床板の上に薄縁(ござ)を敷き、小机と円座があった。登が牢屋のようだと言うと、津川は病棟も同じ作りで、みんなそう言うと答えた - IA03713 (2023-09-16 評価=4.00)
赤ひげを含め医員はみな同じ色の着物だ。病棟患者は男女とも白の筒袖で、紐を解けばすぐ診察できるようになっているが、不平が多い。赤ひげは独裁者で、嫌われているという - IA03714 (2023-09-16 評価=3.00)
また、健康にいいといって、火鉢なども使わない。二人はほかの部屋を見て、南の口から外に出た。別棟の炊事場の井戸の脇では、四五人の女たちが菜を洗っていた - IA03715 (2023-09-17 評価=3.00)
■三 津川は女たちの一人が森先生の恋人のお雪だ、と教えてくれた。その時十八九の女が津川に薬を作ってほしいと話しかけた。津川は女に新出先生に頼んでごらん、と答えた - IA03716 (2023-09-17 評価=3.00)
南の病棟にそって、空き地の向こうが薬園になっていた。津川は薬園を歩きながら、そこで働いている五平ら、二人に挨拶する園夫たちを紹介し、登はその名を覚えた - IA03717 (2023-09-18 評価=3.00)
赤ひげはえびづる草の実で彼らに薬用の酒を造らせているという。五平がそろそろだ、というので津川はそのうち試してみましょう、と言って北の病棟の家に向かった - IA03718 (2023-09-18 評価=3.00)
津川は声をかけてきた女が、この家の病気の女主人ゆみの付き添い、お杉だと教えてくれた。ゆみは富豪の娘で22-3歳、16で狂気を発病し、店の者二人を殺し一人を殺そうとしたという - IA03719 (2023-09-19 評価=4.00)
それも、色じかけで男の自由を奪った後、かんざしで刺し殺すという。赤ひげによると一種の先天的な色情狂で狂的体質らしい。登もオランダの医書で症例を学んだ事があった - IA03720 (2023-09-19 評価=5.00)
殺された二人は店の使用人で、娘の寝間に忍びこんだ事実もあり罪に問われなかった。だが、命びろいした三人目で事情がわかり、親の金で養生所に家を建てて治療することになった - IA03721 (2023-09-20 評価=5.00)
建物は牢造りでお杉が家事を行い、赤ひげ以外は入れず、娘も一人では出さない。娘に時々発作が起こると、赤ひげが効果のある薬を調合し与えるという。登は殺人淫楽の病だと思った - IA03722 (2023-09-20 評価=4.00)
津川は続けてお杉が可哀そうだ、と言った。主人に同情しているからやめることもしない。自分はここを出ていくことにみれんはないが、お杉に会えなくなるのが残り惜しい、と言う - IA03723 (2023-09-21 評価=4.00)
■四 登はその後、お杉と親しくなり、人に隠れて逢うようにもなった。お杉は登にとって養生所の不平を訴えたり、興味を持ったゆみの病状を知るのによい相手だった