「偸盗(ちゅうとう)」は美しい盗賊団の女首領と、彼女に振り回される太郎と次郎の兄弟の物語。芥川龍之介が描く平安の都を舞台にした愛憎と狂気の世界
- IA04115 (2024-06-18 評価=3.00)
■一 むし暑い、七月の日ざかりの京都、朱雀綾小路である。二十ばかりの、じみで醜い片目の侍が通りかかりの老婆に「猪熊のおばば」と声をかけた - IA04116 (2024-06-18 評価=3.00)
ふり返った老婆は年が六十ばかりの卑しげな女である。「おや、太郎さんか。何か用かい」と老婆が言うと、片目の男は「沙金(しゃきん)はこのごろどこにいるんだ」と尋ねた - IA04117 (2024-06-19 評価=5.00)
老婆は話をはぐらかすと、今夜の手はずについて、亥の上刻(夜の9時過ぎ)に羅生門集合と話した。娘の沙金が様子を探ったと言うと、太郎は「また侍と懇意になったのか」と鋭く尋ねた - IA04118 (2024-06-19 評価=4.00)
老婆は太郎の言葉に「そんなやきもち焼きだと、娘は弟の次郎さんに取られてしまうよ」と笑った。太郎はおじいさんと娘の仲の話を持ち出して反論した - IA04119 (2024-06-20 評価=4.00)
老婆は笑っていなすと、太郎に今夜押し込む藤判官邸の手くばりを説明した。先方は青侍4~5人、こっちは男が23人に自分と娘(沙金)。阿濃(あこぎ)は妊娠中なので朱雀門で待たせる、という - IA04120 (2024-06-20 評価=5.00)
猪熊のばばは「阿濃の阿呆に誰が手をつけたのか―。おかげで、仲間への連絡係はわたし一人という始末だ。まだこれから三軒まわらなくっちゃ」と言いつつ杖を動かした - IA04121 (2024-06-21 評価=3.00)
「沙金は?」と太郎がひきつった唇で尋ねた。老婆はいま自分の家で昼寝でもしているだろう、と返事し、「日が暮れてから会おう」と言って歩きだした - IA04122 (2024-06-21 評価=4.00)
■二 かつて猪熊の老婆は貴族の家で下女をしていた若い時分、身分違いの男にいどまれて沙金を生んだ。その頃に比べると、都はさびしくなり、すっかり変わってしまった - IA04123 (2024-06-23 評価=4.00)
老婆の顔も心も変わった。盗みや人殺しも慣れれば家業。かつて娘と夫の関係を知った時には泣いて騒いだが、現在はそれも苦にならないほど心がすさみ、さびしい思いにとらわれていた - IA04124 (2024-06-23 評価=3.00)
老婆は、四五間先のすすき原に、古むしろの壁を下げた怪しげな小屋の前で、腕を組んで中をのぞきこんでいる、十七八の若侍に気が付くと、歩みを早めた - IA04125 (2024-06-24 評価=4.00)
老婆は「次郎さん、何をしているのだ」と男に声をかけた。小屋の中では、四十格好の小柄な女が胴体が血膿にまみれて裸同様の恰好で横たわっており、異様な臭気を放っていた - IA04126 (2024-06-24 評価=5.00)
老婆は顔をしかめ「疫病にかかっているじゃないか」と後ずさりした。次郎は「近所の家が諦めて捨てたようだ」と微笑しながら言った - IA04127 (2024-06-25 評価=5.00)
「野良犬を石で追い払ったんだ」と次郎は言った。確かに畳からはみ出た腕には鋭い歯の跡がいくつか残っている。「もう死んでいるのか」と老婆が問うと、次郎は「どうだかね」と答えた - IA04128 (2024-06-25 評価=5.00)
老婆が女の頭を突いてみたが反応はない。「死んでるにしても、犬に食わせるのはひどいやね」と次郎が言うと「ひと思いに犬に食われたほうがましかも」と老婆は答えた - IA04129 (2024-06-26 評価=4.00)
老婆は「人間が人間を殺すのは平気でも、犬に食われるのは見ていられないのかい」とからかうと、あと二人連絡に行くから、と言って平六への言づけを頼んだ - IA04130 (2024-06-26 評価=3.00)
老婆は藤判官の屋敷への道を説明し、ついでに次郎に下見を勧めた。そして「太郎のご面相じゃ向こうにけどられそうだが、お前さんなら大丈夫だ」と言った - IA04131 (2024-06-28 評価=4.00)
二人は雑談をしながら、荒廃した京の町を歩いて行った。老婆はふっと次郎に「娘のことじゃ、にいさん(太郎)も夢中になりかねないから、気をつけよ」と言った - IA04132 (2024-06-28 評価=5.00)
次郎が「わたしも気をつけている」と答えると、老婆は「娘は今日の午後お前さんと会う事になってるんだろう。太郎さんとは顔を合わせないんだから、知られるとひと悶着だよ」と言った - IA04133 (2024-06-29 評価=4.00)
老婆は「太郎さんはわたしたちの仲間だから、すぐ刃物を持ち出すじゃないか。その時娘がけがをしないか心配なのさ。やさしいお前さんによく頼んでおこうと思ってね」と言った - IA04134 (2024-06-29 評価=4.00)
老婆は太郎と次郎の関係が大事にならないことを祈っていた。さて、その時分、町の子供が病人の小屋の女にいたずらすると、女は目をあけ小さな声を上げた。女は生きていたのだ